「わたしたちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きていけるよう、すべてがお膳立てされている。」
このセリフをどこかで聞いたことがありませんか?2015年秋には映画化が予定されていますね。今回紹介するのは、伊藤計劃 著 「harmony/」 ハヤカワ文庫JA です。冒頭のセリフは、「harmony/」 ハヤカワ文庫JA P14 L16~P15 L2 からの引用で、主人公のクラスメート、御冷ミァハの口癖です。
著者について
著者の伊藤計劃は武蔵野美術大学出身で、「虐殺器官」で2007年に作家デビューを果たしています。しかし2009年に34歳でこの世を去っています。
概要について
2019年に発生した世界的な大暴動、<大災禍>により国家が消滅し代わりに、生府と呼ばれる、提供される医療サービスを受け入れ、お互いが社会のリソースであるという意識を構築し調和を保つことを是として一定の合意を得た共同体が生まれた。主人公の霧慧トァンの視点で物語が進行していく。
共同体のリソースであるという考えから離脱するため、トァンの学友である、御冷ミァハと零下堂キァンとともに心中しようとするが、トァンとキァンはそれに失敗する。
それから13年後、WHOの人間になったトァンは、13年ぶりにキァンと再会し食事を共にするが、突如キァンが食事の最中に自分の喉をテーブルナイフで突き刺し自害する。このような出来事が世界的な規模でしかも同時におこり、3000人近くの人間が自殺をする。
トァンは原因を探っていくと、かつて自分と母を捨てて、研究をするために他国へ移った父が今回の事件に関与しているのではないかと考えるようになる。
トァンの父、ヌァザは自分が開発した「Watchme」と呼ばれる超小型の医療用ナノロボットが今回の事件の発端になったとトァンに話す。「Watchme」は自分の健康状態を本人に知らせてくれるデバイスで、生府樹立後は無くてはならないものであった。
感想について
この作品を読んでみると、まず①世界設定が巧みであること、②3人の少女の物語、の2つが印象的でした。2019年に発生した世界的な大混乱により新しく人間の秩序が構成されるも、今までの過ちを犯さないために極端な解決策をとってしまった結果が、生府を生み出してしまったという流れは人間社会をよく反映しているなと思います。
加えて、近未来感を出すためにあえて変わった名前をしようしているのも、読者に私たちがいる世界とは価値観も時代背景も違うことを強調する働きがあるのかなとも思いました。
この作品の上手いなあって思ったところは、科学的事象に焦点を当てるのはもちろんなんだけど、社会や人間関係が科学によってどのように変わってきてどのように変わっていくのかをはっきり書いていて、時の流れと社会の流れが読み取りやすかったです。
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